2018年7月14日土曜日

大学受験英語読解講義③

大学受験英語の読み方3


例題1

Democracy is unthinkable without the ability of citizens to participate freely in the governing process. Through their activity citizens in a democracy seek to control who will hold public office and to influence what the government does. Political participation provides the mechanism by which citizens can communicate information about their interests, goals, and needs, and create pressure to respond.
(東大、2006)


動詞に着目した文型の把握


今回は第三文から。

Political participation provides the mechanism by which citizens can communicate information about their interests, goals, and needs, and create pressure to respond.


最初の部分、Political participation provides the mechanism ですが、前から見ていくと、provides という動詞がありますね。

これがVだから、その前のPolitical participation S、後ろのthe mechanism O。

3文型ですね。

で、いまさらなんですけども、英文を読むときにまず動詞を見つけて、
それをもとにSVOCの構造を把握するということが重要になります。

この場合だと第三文型なんですけども、それはprovides という動詞を見つけることでわかる。

同様に、第一文に戻ると、Democracy is unthinkable の部分はis というbe動詞に着目すればSVCの第二文型ということが分かるんですね。


基本文型は第一文型から第五文型の五つしかないので、一応覚えておいてください。

第一文型:S + V

第二文型:S + V + C

第三文型:S + V + O

第四文型:S + V + O1 + O2

第五文型:S + V + O + C


それぞれの文型の詳細な説明は文法書などを参考にしてほしいのですが、こで重要なことはとにかく動詞Vを見つけるということなんです。

英文の構造を把握するためにはこのSVOCを読み解く、即ちどれがSでどれがVなのか、Vの後ろに来ているのはOなのかCなのか、そのどれでもないのか、といったことが分からなくてはいけない。

で、そのための最初の手がかりが動詞を見つけることなんですね。


動詞が分かれば、普通はその前に来ている部分がS,動詞の後ろがCかO、あるいはそのどちらでもないか。

だからまずは単語の知識が重要です。

動詞を見つけるためには、その単語が動詞であるということを知っている必要がありますよね。

その単語の意味を知らない、あるいは意味は知っていてもそれが動詞であるかどうか、そもそも品詞なんて気にせずに覚えているということではダメなんですよ。


しかも、動詞によってある程度文型が決まってくるんですね。

例えばbe動詞だと、第一文型か第二文型。

それ以外はとらないんですよ、be動詞は。

provide だと第三文型が普通ですが、第二、第四文型もとれる。

しかし、動詞ごとにすべて、どの文型を取れるか、整理して覚えておくなんてことはほぼ不可能です。

なので、それぞれの動詞の使い方をある程度おぼえておけばいいのです。


そのためにはやはり、繰り返しになりますが、辞書を引いたときに例文や使い方をよく読んでおくということが重要です。

provide = 提供・供給する」みたいにおぼえていても全然使えないんです、実際の英文を読む際には。

その単語の品詞は何か、動詞であった場合には後ろに目的語(O)をとる他動詞なのか、補語(C)をとるのか、どんな前置詞を伴って使われるのか。

こういったことも含めておぼえておけば、英文の中でその動詞をみつけることで文型がわかる、英文の構造がわかるんです。


だからまずは動詞を見つけることがとっても重要。

複雑な文、長い文では特にそうです。


で、例文に戻りますが、Political participation provides the mechanism

訳すと「政治参加があるメカニズムを提供する」、とりあえず直訳するとこうなりますね。

あんまり意味がよくわからないですけど。

で、the mechanism ってどんなメカニズムなのか?

それは次に書いてある。


関係代名詞節

by which citizens can communicate information

これは関係代名詞節ですね。

which が関係代名詞であること、関係代名詞節とはそれより前に出てくる名詞(先行詞という)を修飾することは皆さん知っていると思います。


関係代名詞節は一つのまとまりになるので、関係代名詞が出てきたらその前で切る。

この場合は関係代名詞whichの前にby という前置詞がついていますが、前置詞+関係代名詞というのもよく出てくるパターンなので、by which から関係代名詞節が始まるんです。

で、先行詞、すなわちby which 以下の関係代名詞節が修飾しているものは、当然、直前にあるthe mechanism です。

mechanism the がついてますから、どんなメカニズムでもいいわけではなくって、何らかの特定のメカニズムですよね。


じゃあどういうメカニズムなんだと、そこまで読んだ人はみんな、思うわけじゃないですか。

それがby which いかに説明されているわけですよ。

で、そのメカニズムというのは、by which citizens can communicate information
「それによって市民が情報を伝達できる」メカニズムなんだと。


ここで先行詞 the mechanism と関係代名詞節 by which citizens can communicate information との関係を見ておきます。

結論から言うと、
citizens can communicate information by the mechanism なんですね。

「市民はそのメカニズムによって情報を伝達することができる。」

で、the mechanism が前に出てきて、それをby which citizens can communicate information が修飾すると、「市民がそれによって情報伝達できるようなメカニズム」となるわけです。

これが先行詞と関係代名詞節との関係。


by which by by the mechanism byなんです。

the mechanism which citizens can communicate information by と、by をそのままもとの位置に置いておいてもいいのですが、関係代名詞の前に持ってくることがよくあります。

ここでもそう。


で、ここまで見ておくと、

Political participation provides the mechanism by which citizens can communicate information

訳:政治参加はそれによって市民が情報伝達できるような仕組みを与えてくれる。


文脈の中での単語の意味の把握

この辺まで読んでくるとどうも、第一文の participation とか第二文の their activity, この第三文の political participationなど、全て選挙における有権者の投票行動のことを指しているんだなということが分かってくるよね。

最初からそんなことわかっていたよという知性豊かな読者もけっこういるかとも思いますけど、ここまで読んでくるともうそれは明らか。

だから、「政治参加」とか「彼らの活動」とか直訳するより「選挙での投票」とか「投票行動」と訳したほうがいいと思います。


もちろん、political participation で「政治参加」って訳しても間違いではないんですよ。

でもそれが選挙における投票行動を指すとは、政治学とか専門に勉強している人や、実際の政治に何らかの関与をしている人でなければわかりにくいよね。

我々の多くのように、実際の政治にあまり関心がないとか、政治学なんてきちんと勉強したことがないとか、そういう人が大多数だと思うんだけど、そういう「普通の人」が「政治参加」っていう言葉を聞いてどんなことをイメージするか?

どうですか、みなさん?

あなたは「政治参可」してますか?

って聞かれると、「いや、特にはしてないけど」とか答えちゃうよね。


「政治参加」なんて言葉を聞くと、ほとんどの人は「政治家に立候補すること」とか「特定の候補者の支援活動をすること」とか、場合によっては「デモに参加すること」とか、こんな感じのことをイメージすると思うんですよ。

だから、「君、政治参加してる?」なんて聞かれると「いや、別に」となってしまう。


でも、ここで言ってるpolitical participation はそういったことではないんです。

選挙に行って投票すること、あるいは場合によってはあえて選挙に行かないこと、棄権することもpolitical participation なんですよ。

選挙に行って特定の候補者に投票するということは、その候補者の政策を支持するということですね。

特定の政策に対する支持を表明することで微々たるものではあるけれども、政治的影響力を行使する。

あるいは、あえて選挙に行かないということで、投票率を下げるということに貢献する。

これは、「お前らの言ってる政策は右から左まで全部ダメ、反対」っていう意見を表明することになる。

まあ、結果的にですけどね。

例えば投票率が50%を割れたりすると、ある政党や候補者が勝ったとしても、実質的には支持されているとはいえないよね。

半分以上の人たちがその政党なり候補者なりの掲げる政策に魅力を感じていない、支持していないということだからね。


話を戻しますけど、democracy における political participation とは選挙に行って投票することなんですよ。

それがこの第三文あたりまで読むとはっきりわかる。

というか、わからなくてはいけない。


political participation を「政治参加」と訳して、それが具体的に何を指すのかあいまいなまま理解した気になっていると、本当に英文を理解したことにはならないんですね。

だって、特定の政治家に対する政治献金や選挙応援なんかをイメージして読んでいると、だいぶずれた理解になってしまうよね。


英文を読む際には、一つひとつの単語が具体的にどういうことを指しているのか、考えながら読むということが非常に重要なんです。


例えばここで、「政治学の知識なんて全くないし、政治に対する関心もほとんどない」という人が、どうやってpolitical participation を「選挙に行って投票すること」と正確に理解することができるのか。

この後ろの部分を読むと、about their interests, goals, and needs, とあります。

直訳すると、「彼らの利害関心や目標、要求」です。

この部分は直前の information にかかりますから、

the mechanism by which citizens can communicate information about their interests, goals, and needs, 
で、「市民が自分たちの利害関心や目標、要求に関する情報を伝える仕組み」といった意味になります。


我々一般国民は、自分たちの利害関心や目標、要求に関する情報をどうやって政治家に伝えるか?

選挙を通じた投票行動によってですね。

もちろんデモとかネットへの書き込みとか、他にも方法はあると思いますが、一番はやはり投票行動ですよね。

で、これが Political participation なんですから、やはりここでの Political participation は「政治参加」ではなく、「選挙における投票行動」と訳したほうがよい。


このように、文脈に即して単語を訳すということが、非常に重要です。

これは和訳問題に限らず、客観形式の入試問題であっても、自分が英文を読んで正しく理解するためには絶対に必要なことなのです。



第三文、

Political participation provides the mechanism by which citizens can communicate information about their interests, goals, and needs, and create pressure to respond.

訳は、

「選挙を通じた投票行動は、それによって国民が自分たちの利害関心や目標、要求についての情報を政治家達に伝え、また、それにこたえるように政治家達に圧力をかける仕組みである。」

どうですか。

意味がはっきりわかりますよね。

これが文脈を意識して単語の意味を理解した訳なんです。


もしこれを、文脈や話の流れを考慮せずに機械的に直訳するとどうでしょうか。

「政治参加は市民が彼らの利害関心や目標、欲求に関する情報を伝え、答えるための圧力を作り出す仕組みである」

何言ってるのか、よくわからないでしょう。

岩波文庫みたいだよね。


残念ながら、市販の問題集や参考書の解答には、こんなレベルの意味不明な訳が載っていることが多いのです。

多くの塾や予備校の授業でも、この程度の訳でよしとしているんです。

訳している本人もその意味を正確に把握できていないからなんですよ。

しかし、とりあえず英語の構文や文法に関しては間違っているわけではない。


たとえ自分が受験する大学で和訳の問題が出ないとしても、こんな読み方をしている限りは英文の内容がきちんと理解できないんですよ。

だからこそ、英文を正確に理解できるようになるためには、まずは正確な和訳ができるようにならなくてはいけない。


このような作業をせずに、「英語を英語で理解する」なんて言っていると、いくら英文を読んでもその内容がぼんやりとしか理解できないんです。

「英語を英語で正確に理解する」ためには、その前の段階として、まずはきちんと日本語に訳せるようにならなくてはならない。


脱線しましたが、最後に例題1の全訳を書いておきましょう。


例題1

Democracy is unthinkable without the ability of citizens to participate freely in the governing process. Through their activity citizens in a democracy seek to control who will hold public office and to influence what the government does. Political participation provides the mechanism by which citizens can communicate information about their interests, goals, and needs, and create pressure to respond.
(東大、2006)

民主主義は、国民が政治に自由に参加することができなければ成り立たない。

投票行動を通じて、民主主義体制下の国民は、誰が政権の座につくのかをコントロールしようとし、政府がやることに対して影響力を行使しようとする。


選挙を通じた投票行動は、それによって国民が自分たちの利害関心や目的、要求を政治家たちに伝えるための仕組みであり、また、政治家たちにそれらに答えるように圧力をかけるための仕組みである。